新規事業マーケティングの進め方|認知ゼロからPMF達成までの実行戦略

この記事の要点

  • 新規事業は既存事業の成功体験(指名検索や展示会)が通用しない「認知ゼロ」からのスタートである
  • 成功の鍵は、ツール導入やWebサイト制作の前に「誰に・何を・どう提供するか」を定義する戦略設計にある
  • 予算2,000万円の場合、1〜2割を戦略設計に投資し、残りを実行リソースに充てるのが理想的な配分である
  • 体系的なステップを踏むことで、再現性高くPMF(Product Market Fit)を目指せる

既存事業で確かな実績を積み上げ、満を持して新規事業のマーケティング担当者に任命されたあなた。しかし、いざ蓋を開けてみると「既存事業の勝ちパターンが全く通用しない」という現実に直面していないでしょうか。

「展示会に出ても名刺交換だけで終わる」「Web広告を出してもCPAが高騰して商談につながらない」「社内の営業にリードを渡しても『質が悪い』と放置される」……。

これらは、多くの新規事業マーケティング担当者が抱える共通の悩みです。特に、認知度がゼロの状態で市場を開拓しなければならない新規事業は、既に顧客基盤がある既存事業とは戦い方が根本的に異なります。さらに、兼務やひとり体制でリソースが限られる中、戦略なき施策の連打は疲弊を招くだけです。

この記事では、2,000社以上のBtoBマーケティング支援実績を持つferretのノウハウに基づき、新規事業を軌道に乗せるための具体的なステップを解説します。不確実性の高い新規事業において、どのように予算を配分し、戦略を設計し、社内を巻き込んでいくべきか。その「勝ち筋」となる実行戦略をお伝えします。

目次[非表示]

  1. 1.この記事の要点
  2. 2.新規事業マーケティングが陥る「3つの失敗パターン」
    1. 2.1.既存事業の成功体験(指名検索・展示会)をそのまま適用してしまう
    2. 2.2.「誰に・何を」の戦略が曖昧なまま、Webサイト導入が目的化する
    3. 2.3.担当者のリソース不足により、戦略と実行が分断されている
  3. 3.成功確率を高める全体設計の考え方
    1. 3.1.STEP0-1:PMFに向けた顧客定義とスモールスタートでの仮説検証
    2. 3.2.STEP2:リードの「質」を重視した母集団形成とナーチャリング
    3. 3.3.STEP3-4:MQL定義の合意と営業連携によるフィードバックループ
  4. 4.「ひとり・兼務」を乗り越えるリソース確保と予算配分モデル
    1. 4.1.コア業務(戦略)とノンコア業務(制作)の切り分け基準
    2. 4.2.予算2,000万円の場合|戦略設計と実行リソースへの投資配分例
    3. 4.3.フェーズに応じた外部パートナー(コンサル・常駐)の活用法
  5. 5.社内稟議を通し、全社体制を築くための「共通言語」作り
    1. 5.1.経営層を説得するための試算とベンチマーク活用
    2. 5.2.営業部門との対立を防ぐ「共通KPI」とSFA連携の仕組み
  6. 6.BtoB企業における新規事業マーケティングの成功事例
    1. 6.1.IT・情報通信|ターゲット見直しとコンテンツ強化で商談化率改善
    2. 6.2.製造業|アナログ依存から脱却し、デジタル活用でリードを創出
  7. 7.まとめ

新規事業マーケティングが陥る「3つの失敗パターン」

新規事業のマーケティングは「未知の市場で需要を創出する」活動です。既存事業の延長線上で考えてしまうと、多くの企業が以下の3つの罠に陥ります。まずは自社の状況と照らし合わせてみてください。

既存事業の成功体験(指名検索・展示会)をそのまま適用してしまう

既存事業では、長年のブランド認知があるため「指名検索」での流入が多く、大規模な展示会に出展すれば多くの既存顧客がブースを訪れてくれます。しかし、新規事業で同じことをしても成果は出ません。

「誰もあなたの新しいサービスを知らない」からです。

新規事業において、指名検索はほぼ発生しません。また、展示会で出会う顧客もあなたのサービスの価値をまだ理解していません。既存事業の「待ちの姿勢」や「刈り取り型の施策」をそのまま持ち込むと、リード獲得単価(CPA)だけが高騰し、商談にはつながらないという事態に陥ります。

「誰に・何を」の戦略が曖昧なまま、Webサイト導入が目的化する

「とりあえずWebサイトを作ろう」。

戦略が定まっていない段階で、こうした「手段が目的化」してしまうケースも散見されます。

「誰の、どんな課題を解決するのか(ターゲットと提供価値)」が明確でないまま作ったWebサイトは、誰の心にも響きません。これはリソースの浪費であり、経営層からの信頼を失う要因となります。

担当者のリソース不足により、戦略と実行が分断されている

BtoB企業の新規事業の現場では、マーケティング担当者が「ひとり」または「他業務との兼務」です。

頭では「戦略を練らなければ」と分かっていても、日々の社内調整やコンテンツ制作、広告運用の実務に追われ、「戦略を考える時間が確保できない」のが現実です。

その結果、戦略は「絵に描いた餅」となり、目の前の消化しやすいタスク(とりあえずメルマガを送る、とりあえず記事を書く)だけに終始してしまいます。これでは、いつまでたってもPMF(Product Market Fit:顧客が熱狂的に欲しがる状態)にたどり着くことはできません。

成功確率を高める全体設計の考え方

闇雲な施策の乱れ打ちを防ぐには、正しい順序でマーケティングを進める必要があります。新規事業においては、特に初期のステップでの仮説検証が命運を分けます。

STEP0-1:PMFに向けた顧客定義とスモールスタートでの仮説検証

最初に行うべきは、Webサイトを作ることでも広告を打つことでもありません。「誰に(ターゲット)」「どんな価値(バリュー)」を提供するのかを言語化することです。

新規事業では、この定義自体が「仮説」です。そのため、いきなり数百万円をかけた大規模なサイト構築をするのではなく、LP(ランディングページ)1枚と少額のWeb広告などで「スモールスタート」し、市場の反応を見ることが重要です。「この訴求でクリックされるか?」「資料請求されるか?」を検証し、反応が良い勝ち筋が見えてから本格的な投資を行います。

STEP2:リードの「質」を重視した母集団形成とナーチャリング

ターゲット仮説がある程度固まったら、リード(見込み顧客情報)の獲得フェーズに進みます。ここで重要なのは「数」よりも「質」です。

新規事業のリソースは限られています。商談化する可能性の低いリードを大量に集めても、インサイドセールスが対応しきれません。ホワイトペーパー(お役立ち資料)や共催セミナーなどを通じて、自社の課題解決策に興味を持つ層を集めます。そして、すぐに商談にならなくても、メルマガなどで継続的に情報提供(ナーチャリング)を行い、検討度合いが高まったタイミングを逃さない仕組みを作ります。

STEP3-4:MQL定義の合意と営業連携によるフィードバックループ

新規事業マーケティングのゴールは、リード獲得ではなく「受注」です。しかし、営業部門(特に既存事業の営業が兼務する場合)は、実績のある既存商材を売りたがる傾向にあります。

ここで対立を防ぐためには、マーケティングと営業の間で「MQL(Marketing Qualified Lead:営業に渡すべき有望なリード)の定義」を合意しておくことが不可欠です。「どの企業規模で、どんな役職で、どんな行動履歴があれば架電するか」を決め、営業からは「商談の結果どうだったか(失注理由は何か)」をフィードバックしてもらいます。この循環(ループ)を作ることで、ターゲティングの精度が向上していきます。

「ひとり・兼務」を乗り越えるリソース確保と予算配分モデル

理想的なステップは理解できても、それを実行する「手」が足りないのが新規事業の常です。ここでは、限られたリソースと予算をどう配分すべきか、具体的なモデルを示します。

コア業務(戦略)とノンコア業務(制作)の切り分け基準

すべてを自分ひとりでやる必要はありません。業務を「コア(競争力の源泉)」と「ノンコア(作業)」に分けましょう。

  • 「コア業務(内製すべき)」:ターゲット選定、提供価値の定義、社内調整、KPI設計、顧客インタビューなど。事業の方向性を決める意思決定に関わる部分。
  • 「ノンコア業務(外注すべき)」:記事の執筆、バナー制作、広告の入稿作業、ホワイトペーパーのデザイン、リスト作成など。

戦略なき制作は無駄になりますが、制作なき戦略もまた無価値です。担当者はコア業務に集中し、実行部分は外部リソースをうまく活用するのが鉄則です。

予算2,000万円の場合|戦略設計と実行リソースへの投資配分例

例えば、新規事業の年間マーケティング予算が「2,000万円」だったとします。多くの失敗例では、この大半をいきなり「広告費」や「展示会出展費」に使ってしまいます。

成功確率を高める推奨配分は以下の通りです。

  • 「戦略設計(初期投資):150万〜300万円(全体の約10〜15%)」:ターゲット調査、ペルソナ設計、カスタマージャーニー策定、KPI設計など。ここで「地図」を正確に描くことに投資します。
  • 「施策実行・コンテンツ制作:1,000万〜1,200万円」:LP制作、ホワイトペーパー制作、記事制作、Web広告費など。
  • 「ツール・システム:残余」:必要最小限のツールなど。

最初の10%〜15%を惜しんで戦略をおろそかにすると、残りの1,700万円以上をドブに捨てることになりかねません。「急がば回れ」で、戦略設計への投資が最も成果を高めます。

フェーズに応じた外部パートナー(コンサル・常駐)の活用法

外部パートナーを選ぶ際は、「戦略だけ提案して去っていくコンサル」や「言われたものしか作らない制作会社」ではなく、「戦略と実行を一気通貫で支援してくれるパートナー」を選びましょう。

特に新規事業では、戦略を立てた直後に「やっぱりターゲットを変えよう」といったピボット(方向転換)が頻繁に起こります。この変化に柔軟に対応し、時にはチームの一員として実務を代行してくれる伴走型の支援が不可欠です。

自社内に戦略設計のノウハウがない、あるいは実行リソースが圧倒的に足りない場合は、戦略設計からコンテンツ制作、インサイドセールスの立ち上げまでをトータルで支援するサービスを検討するのも一つの選択肢です。

社内稟議を通し、全社体制を築くための「共通言語」作り

新規事業はすぐに黒字化するわけではありません。経営層からの投資を継続させ、営業部門の協力を得るためには、感情論ではなく「数字」と「共通言語」が必要です。

経営層を説得するための試算とベンチマーク活用

経営層が最も気にするのは「いつ回収できるのか」です。

「やってみないとわかりません」では予算は下りません。ここでは「LTV(顧客生涯価値)」と「CAC(顧客獲得コスト)」を用いた試算モデルを提示しましょう。

「LTV > 3 × CAC(LTVはCACの3倍以上であるべき)」

SaaSやサブスクリプションモデルの場合、このユニットエコノミクスが成立することを示すのが基本です。「現在はCACが高いが、チャネルが最適化されれば○ヶ月後にこの水準になる」というシミュレーションを提示します。また、類似したビジネスモデルの他社成功事例(ベンチマーク)を提示することも説得力を高めます。

営業部門との対立を防ぐ「共通KPI」とSFA連携の仕組み

マーケティングと営業の対立は、「見ている数字が違う」ことから起こります。

マーケが「リード数」だけを追い、営業が「今月の売上」だけを追っていると、議論は噛み合いません。

両者をつなぐ共通言語として「商談創出数」や「受注貢献額」をKPIに設定しましょう。そして、SFA(営業支援システム)を活用し、マーケティング施策から生まれたリードが、その後どうなったのか(商談化率、受注率)を可視化します。「このリードはあの展示会から生まれた」「この記事を読んだ人は受注率が高い」といった事実データを共有することで、組織間の壁はなくなります。

BtoB企業における新規事業マーケティングの成功事例

実際に、壁を乗り越えて成果を出した事例を紹介します。

IT・情報通信|ターゲット見直しとコンテンツ強化で商談化率改善

あるIT企業では、新規事業としてSaaSプロダクトをリリースしましたが、リード数はあるものの商談につながらない課題を抱えていました。

分析の結果、ターゲットが広すぎたため、訴求がぼやけていることが判明しました。そこで、ターゲットを特定の業界の「情シス部門」に絞り込み、彼らが抱える技術課題に答える専門的なホワイトペーパーを制作しました。

その結果、リード数は一時的に減少しましたが、「商談化率は約3倍に向上」。営業からも「話が通じる顧客が増えた」と評価され、事業が一気に成長軌道に乗りました。

製造業|アナログ依存から脱却し、デジタル活用でリードを創出

伝統的な製造業の新規事業開発室の事例です。これまでは展示会とテレアポのみで集客していましたが、コロナ禍以降、成果が激減していました。

そこでWebサイトを刷新し、技術力をアピールするコラム記事の連載を開始しました。社内にWebの知見がなかったため、外部パートナーの支援を受けながら戦略設計からコンテンツ制作までを実施。

半年後には、Web経由で月間数十件の安定した問い合わせが入るようになり、「デジタル起点の新規開拓チャネル」が確立されました。今では、インサイドセールス部隊も立ち上がり、マーケティングと営業が連携して案件を追う体制が整っています。

まとめ

新規事業マーケティングの成功は、決して「運」や担当者の「センス」だけで決まるものではありません。

正しいステップに沿って戦略を設計し、適切な予算配分でリソースを確保すること。そして、データを共通言語にして社内を巻き込んでいくこと。これらを着実に実行すれば、PMFへの道は必ず開けます。

もし現在、 「戦略を描く時間もノウハウも足りない」 「社内のリソースだけで進めることに限界を感じている」 「経営層を説得するためのロジックが欲しい」 とお悩みであれば、一度専門家に相談することをお勧めします。

ferretソリューションでは、2,000社以上の支援実績に基づき、貴社のフェーズに合わせた「戦略設計」から「実務実行支援」までを伴走型でサポートします。まずは現状の課題整理から始めてみませんか。

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菊池 貴行(きくち たかゆき)
菊池 貴行(きくち たかゆき)
金融機関、メディア運営会社を経て2018年より株式会社ベーシックへ入社。 ferret Oneカスタマーサクセス部にて、オンボーディングチーム立ち上げメンバーとして活躍し、顧客の「BtoBマーケティング」の立ち上げ支援を行い、 担当社数は累計120社以上。 製造業・ITサービス・コンサルティングサービスなど、有形から無形の幅広い業界の企業に対して、各社の事業理解から組織状態など踏まえた顧客に 寄り添った戦略設計や施策の設計などマーケティング支援を行う。 現在はマーケティング部にてセミナーの企画から講師を担当し、これまでに支援してきた豊富な経験をもとにした、実務に使えるセミナー内容に定評がある。

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